螺旋

March 02, 2022

二月があっという間に終わり季節は春の訪れを告げる。風がなければもう薄手の羽織だけで外出できるほどの暖かさである。

駅から広瀬通りをずっとまっすぐに進んでいくと左手に晩翠画廊というギャラリーが見えてくる。この日はガラス職人である佐藤元洋さんの作品の展示会が催されていた。どうやら丁度今日から始まった展示らしい。

「どうぞお手に取ってご覧ください」とスタッフに声をかけられた。展示室には宙吹きガラスでできた器や万華鏡、ヘアアクセサリー、箸置きと言った作品たちが展示されている。

宙吹きガラスとは、熱したガラスに吹き竿という棒を通して息を吹き込み、ガラスを膨らませて成形する手法である。ガラスの温度は 1300 度にまで昇る。型を使わないため、一つ一つ違ったガラスの表情が楽しめるのが特徴だ。

作品の中でも「螺旋」と名付けられた万華鏡が印象に残っている。万華鏡の底面には色とりどりのガラスの破片と透明のオイルのようなものが入っており、オイルの粘度が固めなのか万華鏡を回すとオイルがもったりと上から下へ流れ、模様がゆっくりと変化していく。ガラスやビーズだけでできた万華鏡の、カランカランと小さな音を立てて模様が切り替わるのとは違って、万華鏡を回してから模様が変わっていくまでに少し遅延があるのだ。鏡の奥に広がる像は静かに変化する。

同じ形をした色違いの万華鏡がいくつか並んでいるので、一つ一つ手に取って円筒の小さな穴を覗き込む。万華鏡を回していると「あっ」と好きな模様に出会う瞬間がたまに訪れるが、オイルがまだ下に落ち切っていないので、その模様を留めることができずに変化してしまう。一度逃してしまったその像はもう再現することができない。そんな意図した遅延による記憶の残像を楽しむ。

ギャラリーを出るとうっすらと雲がかかった空から差し込む日差しが心地良かったので、まだ外で過ごすには早いとも思ったが公園に行ってみることにした。通りのコンビニでアイスのカフェラテを買ったが、氷の入ったプラスチックのカップを持つ左手が冷たい。

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