冬の吐息

December 07, 2024

一週間ほど札幌に行ってきた。北海道で過ごした日々はささやかな幸せに溢れていた。

ポケットラジオを持っていったが、平日の朝にNHKで「クラシックの庭」という番組が放送されていて、毎朝音楽との出会いがあった。

リヒテルとグールドのバッハの聴き比べ(リヒテルは聞き逃してしまったので、後で聴こうと名前だけメモしておいた)、先月の演奏会でも聴いたメンデルスゾーンの交響曲第4番「イタリア」、シャンソン歌手イヴ・モンタンの「枯葉」(これは、クラシックの庭の後の歌番組で紹介されていた)。

夕方くらいに仕事の集中力が切れてきてラジオをつけてみると、FM NORTH WAVEという北海道の局でセンスの良いプレイリストが流れていた。それから夜はこの局を聞くようになり、ホテルの窓から街を眺めながら、ラジオから流れてくる音に耳を傾けた。窓の外では、ぽつりぽつりと人が夜の暗闇の中に消えていった。

午前休を取った日、北海道の滞在中に読もうと思っていた小川洋子の小説を持って、カフェを二軒はしごした。

一つは札幌に来たら必ず訪れているアトリエ・モリヒコ。もう一つは前から気になっていたPLANT SATO COFFEE。好きなお店の空間に浸りながら、物語の言葉を噛み締める。

その日の午後仕事を終えてから、閉店間際の紀伊國屋書店を訪れ、また何冊か小説を買い足した。

sigh

北海道を発つ日、前日の夜に少し雪が降った。

森の中を歩いてみたくなり、地下鉄とバスを乗り継いで野幌森林公園を訪れた。新札幌駅のバスターミナルのベンチに座ってバスが来るのを待っていると、再び空から雪が舞ってくるのが見えた。バスに乗ると、道路の雪はほとんど溶けてしまっていた。

森に着くと、樹木の下の背丈が低い草木には雪がまだ残っていた。森一帯に粉砂糖がまぶされたように、辺りはほんのりと雪に覆われている。

森の入り口で数人とすれ違っただけで、あとは誰もいなかった。時々立ち止まりながら、一人森の奥へと歩き続けた。

sigh

その日の夜、苫小牧港から仙台行きのフェリーに乗った。行きのフェリーは酷く揺れて、珍しく乗り物酔いをしてしまったが、帰りの波は穏やかだった。船の中で小説の続きを読み進めた。

翌朝、海の上で新しい一日を迎えた。太平洋へ伝ってくる波のように、ゆったりとした時間が流れていた。

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