月詣に来ると神前式が挙げられていて、拝殿で酒が配られている様子が垣間見えた。帰りには黒揚羽が飛んでいて、今日は珍しいものがたくさん見れてなんだかついている。
神社を後にし女坂を下っていくと、右手に赤松に囲まれた古民家が見えてくる。この亀井邸は、大正13年(1924年)に亀井商店(現・カメイ株式会社)の初代社長である亀井文平氏によって建てられた住宅である。玄関の引き戸を開けるとボランディアのスタッフが迎えてくれた。
和と洋が調和をなす空間
亀井邸は、伝統的な和館と西洋から流入してきた洋館が併置しており(和洋併置式住宅)、明治時代の上流階級の邸宅に用いられた「和洋二館住宅」をベースに、上層階級の庶民の手にも届きやすくした住宅のつくりとなっている。
二階建てのこの建物の内部は、和室と洋間で構成されており、別で洋館とはなれ部屋が渡り廊下で繋がれている。一階の和室で受付を済ませた後、まず洋館を見学した。
洋館の外壁には植物の蔓を思わせるような曲線が特徴のアールヌーヴォー様式や、水平線や垂直線を多用し幾何学模様を多用するセセッション様式の装飾が取り入れられている。
日本の数奇屋建築に見られる丸窓が用いられたり、家具には押込箪笥が取り入れられている。伝統的な日本のデザインと西洋の装飾様式が深く融合し、とても洗練された印象を受ける。
個人的に亀井邸の格子窓のデザインがお気に入り。丸窓はどこか茶室を思わせるような日本的なつくりで、その上に被さる格子が美しい幾何学模様をなしているところが好き。今見ても大正時代の古さを感じさせないモダンな雰囲気がある。
和館に戻ってきて次に二階へ向かった。言葉で説明しにくいけれど、階段のつくりが面白くて、一階から二手に分かれて階段が伸びている。片方は大きな和室につながっており、もう片方は書生部屋へ向かう廊下へと続いている(その先には先ほどの和室がある)。階段→(廊下)→書生部屋→(廊下)→和室→もう片方の階段と、ぐるりと輪を描くように二階を一周できる。
雪見障子越しに見える赤松の景色
二階の和室は砂擦り硝子が用いられた雪見障子に囲まれており、和室を囲む廊下にたてかかる窓がほとんどガラス張りなので、とても開放感がある。窓から新緑の赤松が見え、額縁に収められた景色を見ているよう。窓の外で植物が五月のそよ風に揺らいでいる。
他にも扉の引手がコウモリや花の形をしていたり、建物の細部にまで技巧が凝らされていた。神社の麓に佇む小さな住宅で、百年という時の木の呼吸と職人たちの生きた技を感じた。